《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
-
川合民子『句集 春障子』(東京四季出版)より
2023.01.21
-
平成9。
「松籟」同人。「沖」会員。
大根をごぼごぼと炊く風の夜
栗飯のほつこり炊けて嫁姑
鳥雲に二伸まである母の文
夏めくや女の白き土踏まず
瞑りて奈落見るごと髪洗ふ
大焚火指の先より輪に入りぬ
木曽は雪蔵にみその香うるしの香
実年と呼ばれ男の懐手
雪ぼたる母には訃報伏せておく
またひとり女が遺り雪の葬
声かけてははの居さうな春障子
山眠る起さぬ程の斧こだま
母在せし部屋そのままに北閉ぢる
貼り薬すぐに剥がるる雨水かな
光にも風にも馴れて牡丹散る
朝市の言ひ値くづさぬ新生姜
黄落の一隅で売る肖像画
嬰の名で届く赤飯菊日和
両腕に量感しかと嬰の初湯
良寛の端居の辺り手鞠売る
分身の眼鏡秋澄むまで拭けり
白粥の湯気のゆくへの春障子
近江路や使ひはじめの白扇
時鳥啼いて伊香保は蘆花の街
蓮の露ころりとこぼれ尼の恋
さくら冷えやすうけ合ひの約ひとつ
子らの来て母の日らしく過ごしけり