《古書・古本の出張買取》　京都・全適堂 | 日記 | 「春野三十周年合同句集　さゞなみ」（春野発行所）より

令和５。

雨だれといふあかときの春のおと　黛執

尼寺の猫が恋して家出して　渕上雅子

草餅の草よりも濃く仕上がりぬ　佐藤幸子

ふらここを漕ぐ青空の真ん中へ　岡庭正

春の木となるたつぷり濡れながら　片倉映子

眠さうに主出てくる種物屋　柳堀悦子

大波に小波吞まるる立夏かな　横瀬弘山

水打つて子らのパレード待ちにけり　齋藤忠生

蝉生るるあかとき未だ神代なり　戸邊喜久雄

蛍にもなれず特攻くづれかな　尾崎一夫

草刈のかろき音より朝生まる　足立未明

蝉時雨黙祷の間もその後も　ながさく清江

銀漢をめぐるとすれば貝の舟　奥名春江

星飛ぶや村でいちばんのつぽの木　千草清美

蛇穴に入るわたくしは歌舞伎座へ　高橋美穂子

蕎麦の花性善説の捨てがたし　アンドラデ・オズワルド

綱引きのみんなころげて天高し　高橋育子

月出づる大きく赤くおそろしく　伊場野雅代

姑のほかに母なし草ひばり　松下美奈子

誰彼のためではなくて初化粧　和田始子

榾足して序でのやうに癌のこと　橘田多賀司

短日や仕事帰りのメンチカツ　高橋美環

泣き虫にぐるぐる巻いてやるマフラー　持原篤子

冬帽子死をなしとげし胸元に　常盤倫子

美をもつて美を消す雪の金閣寺　前谷あづさ