《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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鈴木しづ子『夏みかん酸つぱしいまさら純潔など』(河出書房新社)より
2023.07.19
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2009年
第1句集「春雷」第2句集「指環」合本
「樹海」会員
寒ともしわざに馴れたるひとの指
寒玉子うく徹宵の油の掌
雪の宿貨車の連結みてゐたり
凩やはやめに入れる孤りの燈
冬雨やうらなふことを好むさが
春雷はあめにかはれり夜の対坐
とほけれど木蓮の径えらびけり
古本を買うて驟雨をかけて来ぬ
躬(み)のつかれ窓にいたはる夕薄暑
夫ならむひとによりそふ青嵐
工場菜園畸形の胡瓜そだちつつ
爆撃はげし
東京と生死をちかふ盛夏かな
宵闇やひとにしたがふ石だたみ
湯の中に乳房いとしく秋の夜
穂芒のひとつ折れしが吹かれゐる
焚かれゆくけさの落葉のなまがはき
煖房のおよばぬ隅に着更へする
冬の月樹肌はをしむなく光(て)らふ
秋燈下こまかくつづるわが履歴
甘へるよりほかにすべなし夾竹桃
娼婦またよきか熟れたる柿食うぶ
月の夜の蹴られて水に沈む石
星凍てたり東京に棲む理由なし
コスモスなどやさしく吹けば死ねないよ
夏みかん酸つぱしいまさら純潔など