《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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茨木和生『句集 椣原(しではら)』(文學の森)より
2023.12.03
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平成19
「運河」主宰
第9句集
懸想文売の狐目忘られず
悪たれの戻りてゐたる春祭
ぼうたんの散りざま淫らとも違ふ
一歩踏み出して動かず山椒魚
板の間は晒屋根なり岩魚焼く
蝮捕前歯一本出し笑ふ
夏帯の後ろ姿も見よといふ
日の昇る前の青空初氷
人選ぶごとき目差梟は
大き死のあとに重き死年の暮
太刀佩かせたる正月の死人(しびと)かな
初観音臍のめでたき仏かな
小刻みの影が正直目高の子
楢林椚林や夏の霜
福相と思ふ眠れる半裂を
山桜紅葉拾ふとするならば
人棲むと思へず鹿尾菜干しゐねば
貧相な顔ふたつ浮く泥鰌鍋
秋の滝ひかりの柱なしゐたり
梟がゐると教へず過ぎにけり