《古書・古本の出張買取》 京都・全適堂 の日記
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辻田克己『句集 ナルキソス』(ふらんす堂)より
2024.01.15
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2007年
「幡」主宰
第8句集
雪消えて森や林や田や畠
教育大構内(キャンパス)にあり蝌蚪の国
筆立にぎしと団扇も挿してあり
虫売の目の高さまで子は跼む
しぐるるや都大路は昆布の艶
風邪の子に鶴折つてやる薬包紙
マスクの息熱く京大俳句展
目薬をさせば一転クリスマス
これしきの石に躓く年の暮
絶食の他なく寒く寝る他なし
扇風機どちら向いても顔ばかり
FAXがでれでれ休暇明けに来る
冷まじや火を免れし般若経
妻の手より宙跳び蜜柑われに来る
凩の中へ病室から帰す
葱刻み今朝も即物的な妻
均等に聖菓七つに切れといふ
正月の幼は爺の膝がよし
青き踏みいま幻の巨椋池
読む足に机の下の寒戻り
桜咲くひとがうつかりしてをれば
やや昏し桜観て来し胸のうち
下車すぐに蝶飛んでくる宝塚
噴水に光の芯のありて立つ
蛞蝓の銀河鉄道動き出す
昼寝より戻つてみれば妻がゐる
すぐ横にくちびるがあり花火の夜
静謐は神にかなはず木の実落つ
冬泉覗きて老のナルキソス
赭黒きさくら三代目の冬芽