《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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杉山伊都子『句集 転調』(狩俳句会)より
2024.06.06
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昭和63
「狩」同人
第1句集
紫陽花のけふの色見てけふも臥す
咳き込みてイエスの言葉きき洩らす
曝書してもう弾くことのなき楽譜
滝行を終へふんだんに被る水
手鞠唄より逃げ出してはずむ毬
米を磨ぐ指の先まで花疲れ
打つ者もなし病棟の油虫
白きものより見えそめて明易し
一つ売れ一つおぎなふ福だるま
これ以上割込めぬ絵馬二月尽
神苑のすみずみ掃かれ鳥の恋
壺に挿し紫陽花の首さだまらず
ヨットの帆風にあらがふこと一途
色あせてきて身になじむ藍浴衣
滝行を見守る者も掌を合す
なにもかも書き込む手帖文化の日
ほろよひの夫の胸に赤い羽根
なみだ拭く拳に木の実にぎりしめ
酉の市財布の小鈴なりどほし
あてもなく端切れをためて一葉忌
その中に海渡り来し年賀状
寒紅をひいて棘あることを言ふ
片割れは波にさらはれ桜貝
首のべて月下美人の花支度
一輪を胸ポケットに花野ゆく
つながつてゐてそつけなき烏瓜
逃げたがる小芋をなだめながら剥く
ボーナスの日のにぎやかな更衣室
弾初や出番待つ手をぬくめつつ
受けやすくうけやすく羽子返しやる
秋風の自在にぬけて座禅堂
黄落やカスタネットを鳴らし売り