《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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高橋隆治『戦時下俳句の証言』(新日本出版社)より
2024.08.21
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1992年
つばくらめ死につくまでを護りてゆけ 作者不詳
秋日没り糞尿流し出す舷側 吉田忠一
憎しみもなく首を打つ日寒く 宮本朱明
いま兵が死にゆく暖炉すでに消え 小寺歓二
馬こほる真夜は野犬の眼が光る 岡本圭岳
戦友を焼くことに馴れゐて寒かりき 高田あきら
冬の日や灰に残れる妻の文字 栗生純夫
氷上に坐して漢虜のもの言はず 文雄
蝿が吸ふ捕虜の眼二つとも撃たれ 梶原寅次郎
灯せば火蛾より先に来る敵機 三上倭二褸
たたかひは蝿と屍をのこしすすむ 属朔夏
戦禍の子幽鬼のごとく焚火守る 原まこと
万歳とうたはれじつと土を見る 津田露木
蜜柑むきて皆戦ひのこと言はず 杏童
淋しと書かぬ戦地の手紙読む麦穂の中 元木サダ
芋蔓やピッチャープレート残るまま 早川成洋
受けとりし戦死の報や火蛾狂ふ 津田樟風