《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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『桂信子ー自選三百句』(春陽堂)より
2024.11.05
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平成4
「草苑」主宰
ひとづまにゑんどうやはらかく煮えぬ
閂をかけて見返る虫の闇
誰がために生くる月日ぞ鉦叩
ゆるやかに着てひとと逢ふ螢の夜
ふところに乳房ある憂さ梅雨ながき
窓の雪女体にて湯をあふれしむ
しづかなる母の起ち居も雪の景
絹をもて身をつつみ秋きたりけり
ひとり臥てちちろと闇をおなじうす
水中に滝深く落ち冬に入る
賀状うづたかしかのひとよりは来ず
ひとひとりこころにありて除夜を過ぐ
手袋に五指を分ちて意を決す
蜜柑山女の肌に血肉満ち
ひと仰ぐたび殺気立つ寒の滝
山越える山のかたちの夏帽子
水の上を水が流れて春の暮
僧ひとりゆくに穂芒ふきわかれ
山中の一木に倚る蛇笏の忌
街燈は高きにともり鳥帰る
傘さしてまつすぐ通るきのこ山
花のなか太き一樹は山さくら
腕立ての遂に伏したる夏畳
しづかなる扇の風のなかに居り
鳥放ち山は眠りに入らむとす
一灯へ人の息寄る峡の冬
全集の濃き藍色や草城忌
たてよこに富士伸びてゐる夏野かな