《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 | 日記 | 陰極転陽 (陰極まりて陽に転ず)

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《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記

陰極転陽 (陰極まりて陽に転ず)

2013.10.29

宝ヶ池にある絵本カフェ「響き館」。
http://hibikikan.com/

月に1、2度立ち寄っては絵本を読ませていただいております。
絵本といえば、あまり読まれない人にとっては子どもが見るもの、もしくはほのぼのしたものといったイメージでしょうが、こちらに置かれているのは大人が鑑賞するための絵本です。
ひと月半前後で企画が変更され、毎回楽しみにしています。

古本屋をしていて、今まで知らなかった本を知る機会が多くなりましたが、こちらも知らなかった絵本と出会える機会を提供してくれるのでたいへん重宝しています。
手元に置いておきたいものは、こちらで販売されていればその場で購入し、閲覧用のみでも注文させていただく。ネットで古本として買ったほうが安いでしょうが、その場で見つけたものは縁あって出会ったわけですから、そのお店で買うということにしています。

今回も今年いちばんとも言える絵本が見つかったので紹介します。
 ユリー・シュルヴィッツ 作・画 瀬田貞ニ訳 『よあけ』 (福音館書店)
シュルヴィッツはポーランドの作家で、日本での初版が1977年で40以上版を重ねている。
ということは、ずいぶん人気のある絵本で、この作家は『あるにちようびのあさ』など、私は好きな作家の一人であったのですが、実はこの絵本のことは代表作なのに知りませんでした。

とくにストーリーらしきストーリーはありません。
一言で言えるほどシンプル。
最初のページは「おともなく、」で紺と黒の闇が楕円の中に描かれている。
登場人物はおじいさんとまごだけで、木の下で眠っていて夜が明けると、ボートに乗って湖に出る。すると夜が明ける。以上。
しかし、すべての絵が枠で囲まれており、上質なアニメーションを見ているよう。
切れ目なく丁寧に情景が変わっていき、夜明けに至る。訳も自然。
水墨画のようだと思っていたら、やはり唐の詩人である柳宗元の詩「漁翁」がモチーフになっているとのこと。

陰極まれば陽になり、その逆も然り。
以前「A点からB点までの豊かな蠢き」という題で書きました。
その一部

>A点とB点しか感じられないのは感覚の鈍い証左である。
あっという間に年をとったという表現をよく耳にするが、それは生まれた瞬間をA点とすれば、現在までのB点までの間が隙間だらけであったということではなかろうか。
セネカは「人生はよく生きれば十分に長い。」と言った。その通りであろう。
B点を死だとすれば、その間をどれだけ蠢いてこれたか。
特殊な経験を多くした人、旅をたくさんした人が豊かな経験をしているわけではない。
旅ばかりしている人は、現実というA点から旅先である非現実というB点を往復している自己逃避なだけであることが多いように見える。<

仏教をはじめ、呼吸を大切にする修行が多いのも肯けます。
息を吐いて吸うまでを意識する、その意識が呼吸と密着しているほど生を味わっていると言えるのでしょう。
吐ききった時点がA点、吸い終わった時点がB点。

この絵本で言えば、A点は夜更けで、B点が夜明け。
その間をシュルヴィッツの豊かな感性が蠢いている。
たった一言で言えるものの内にある豊饒。
哲学と芸術の見事に融合された作品です。

絵本は古本屋に買取依頼をされることが少ないものであります。
お母さん方なら行きやすい新古書店に持っていくのでしょう。
古本屋によっても異なりますが、当店は専門書はもちろん、絵本も取り扱っております。
お気軽にご一報ください。

陰極転陽 (陰極まりて陽に転ず)

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