《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
-
はじめての文楽
2014.04.19
-
能、狂言、歌舞伎や邦楽、落語といった日本の伝統芸能の公演を鑑賞したことはありますが、文楽ははじめて。
知人から行けなくなった方のチケットをゆずっていただきました。
大阪の国立文楽劇場にて、演目は「菅原伝授手習鑑」。
人間国宝の竹本住大夫さんの引退公演とあってか満員。
ただ、クラシックの演奏会以上にお客は高齢層。
第2部の4時からの公演で終わったのが9時。
午前中の1部から通して見ると10時間。それでも、いくつかの段(シーン)は省かれている。
おかしみ、人情といった悲喜こもごもうまく押さえており、江戸時代からの傑作とされるのもわかります。
登場人物が多く、あらすじをまとめるのは難しいのですが無理やりざっくりと。
第一部は、右大臣菅原道真が左大臣藤原時平(しへい)の謀によって大宰府へ流されるまで。
第二部は、70歳になる白太夫には松王丸、梅王丸、桜丸という三つ子がおりました。それぞれ、道真、時平、斎世親王の舎人となって主に仕えていたのですが、道真が謀略によって流罪とされたために仲たがいをする。
菅秀才は幼いながらも道真の子であるため、時平が匿っている武部源蔵に斬首せよと命じる。舎人の松王丸が秀才の顔を知っており、彼を差し向けてその首が本物であるかを確認させる。たしかに本物だと言うが、さてその首の主やいかに。
日本のオペラと言ってもいいでしょう。ワーグナーも見たら驚いたであろう総合芸術。
情景描写、幾人ものセリフを節回しをつけながら大夫一人で演じきる。
三味線や太鼓の音、人形、舞台セットの動きといったすべてが調和していて、まさに総合芸術と言えるでしょう。
出演者の数だけ見てもオーケストラ並み。時間は倍以上で価格は一等席でも6千円弱なのだから、チケット代だけで賄えるわけがない。席数も1階のみですから、補助は必要でしょう。
橋下市長の補助金カットで注目された文楽。以前これも補助をカットされたセンチュリー交響楽団のコンサートについて書きましたが、結果的にはよかったのではないでしょうか。
欠乏と危機感が刺激となり、一体感と張りを生む。
公演パンフもクラシックや映画のペラペラなものとは違い、50ページほどで、かつ床本(台本)までついていて600円とお得。
劇場で、御所の南のほうにあるカフェモンタージュの女性に出会いました。
http://www.cafe-montage.com/
カフェがメインというより、小劇場として室内楽や演劇を上演している。
街中の小劇場といった感じで、公演の質が高い。
最近、人形のない素浄瑠璃も行ったそうです。
レコードも聴くことができ、とくに蓄音機の音は一聴の価値あり。
ここの蓄音機で、蓄音機の認識が変わりました。
家に着いたのが10時半。
8時間も利口に留守番をしていたヤギスケを寝かしつけ、毎日新聞の夕刊を読んでいると、1ページ丸々住大夫さんの記事でした。
その中で、舞台の床本は手書きであることが書かれており、「筆で書かれたこの力強い筆跡でないと腹に力が入らん」と述べています。
パンフにはさまれている床本は当然印刷で、江戸時代の手書きでは現代人は読むことができない。しかし、手書きだからこそ腹に力が入るというのはまさに至言。文字の持つ力でしょう。
腹に力が入った字だから読むほうもそうなる。英語は数百年たっても読むことができますが、日本語は戦前のものでも一般の人は苦労する。
文字の断絶は文化の断絶ですね。
写真は劇場に飾ってあった大阪名物食いだおれ太郎の浄瑠璃人形。
実際に動いたのでしょうか。
当店は江戸期の和本から現代まで取り扱います。
お家の倉庫に眠っている和綴じの本などございましたら、ご一報ください。
多少の虫食いなどがあっても構いませんので。
