《古書・古本の出張買取》 ロバの本屋・全適堂 の日記
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インディアンの智慧
2015.01.05
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『それでもあなたの道を行け』を2時間かけて読み終える。
(ジョセフ・ブルチャック編 中沢新一・石川雄午訳 めるくまーる発行)
編者はインディアンの血を引く者ですが、幼少期にはそのことを隠されて育ちます。
インディアンであることに誇りを持てず隠している人が多かったようです。
しかし、編者は聞き取りを重ね、古から最近までのインディアンの智慧が凝縮された言葉を集め、編集したのがこの本です。そういうと、西洋人が東洋に見出したがるような神秘的なものを探したがる人も多いでしょうが、のっけからガツンと食らわせてくれる。
今すぐにでも、こう言うことができる。
秘密なんてものはない。
神秘なんてものはない。
あるのはただ常識(コモンセンス)だけだ。
オレン・ライオンズ-亀氏族の真実の教えの守りびと(オノンガーダ族)1990年
神秘なんてものはないんだよと。神秘は願望なのだということでしょう。神秘といわれるものを見知る人にとっては神秘でもなんでもなくそれは常識なのだと。
子供の訓練は、じっと座っていなさい、そしてそれを楽しんでごらん、という教えから、はじめら
れたものである。子供たちは、嗅覚を敏感にして、なにも見るものがないというところになにかを
見たり、まったくの静寂のなかに、じっとなにかを聞き取ったりするように、と教えられた。じっ
と座っていることのできない子供は、ちゃんと成長していない子供だ。
ルーサー・スタンディング・ベアー首長(ラコタ族)1933年
子供どころか、じっと座っていることのできない大人に向けられているかのよう。ちゃんと成長していない大人。私の実践する静坐の真髄というべき言葉だと思います。
あまり引用を好みませんが、私にとって味わい深かった言葉を挙げていきます。
大きくなったら、
質問なんかすることはいらない。
自分で見て、自分で聞いて、待っていれば、
答えは向こうからあなたのところにやってくるだろう。
ラリー・バード(ラグーナ・プエブロ族)
頭のよい人ほど
神を必要とする。
自分は何でも知っているという
思考から自分を守るためにも。
ジョージ・ウェブ(ピマ族)1959年
梢で揺れる木の葉や、きらめく池の水面に拡がるさざ波とは違って、生存に襲いかかるどん
な風によっても動かされることなく、いつまでも静けさを心のなかに保っていられることこそ、
その文盲の賢者にとって、理想の態度であり、最上のふるまいだった。
あなたが彼にこう尋ねるとする。
「静けさとはなんですか」
するとその賢者はこう答えるだろう。
「それこそが、<大いなる神秘>だ。聖なる静けさは、彼の声なのだ」
さらにあなたは尋ねる。
「静けさのなかから、なにが得られるのですか」
「自分を統御する能力、真実の勇気や忍耐、がまんづよさ、威厳、敬意といったものだ。静け
さこそ、人格の礎石となるものなのだ」と彼は答えるだろう。
「若いときから、おしゃべり好きな口を慎みなさい」と、年老いた首長、ワバシャは言っていた。
「そうしておけば、年を取ったときに部族のみんなの役に立つ考え方ができるようになっていく
だろう」と。
オヒイェサ/チャールズ・A・イーストマン博士(サンティー・ダコタ族)1902年
インディアンの行なうことのすべてが円環(サークル)をなしていることに、おまえは気がつい
ただろう。それは宇宙の力が、つねに円をなして働いているからであり、あらゆるものは円環
になろうと努めているのだ。その昔、わしらがまだ強く幸福な民であったころ、わしらのもてる
力のすべては、部族の聖なる輪からやってきたものだ。あの輪が破壊されない限り、人々は
栄えることができたのじゃ。・・・・・・宇宙の力が行なうことは、すべてが円環をなしている。天
空は丸いし、地球や多くの星たちもまた、ボールのように丸い形をしているのだと聞いている。
風は全力で吹くときには、渦を巻く。鳥は丸い形をした巣をつくる。鳥もわしらと同じ信仰をもっ
ているからだ。太陽は円を描いては昇り、そして沈んでいく。月も同じだ。そして、両方ともに
丸い形をしている。
季節でさえ、変化しながら大きな円を描いていく。そして、季節はかならず自分のいたところ
に戻ってくる。人の命は子供から子供へとつながる円をなしており、こうして円環は、力の働く
あらゆるものに見られるのだ。
ブラック・エルク(オガララ・ラコタ族)1931年
人に命を吹きこんだのは風だった。
俺たちの口から出てくるのも風で、
それは俺たちに命を与えてくれる。
風が吹きやむと、俺たちは死ぬ。
指先の皮膚のなかに風の小道が走っているのが見える。
それを見れば、俺たちの祖先が創造されたとき
風が吹いていたことがわかる。
不詳(ナヴァホ族)1897年
霊的なものも、政治的なものも、すべてのものがひとつなんだ。なぜなら、創造神がこの世界
をつくったとき、その創造神が誰であっても、彼は世界にまんべんなく触れたために、自動的
にあらゆるものが霊性をおびることになったからだ。
トム・ポーター(モホーク族)1987年
インディアンもたくさんの部族があり、一概にひとくくりにはできないのでしょうが、そこには共通した叡智を見出すことができるでしょう。
写真も多く、みな味わい深い顔をしています。
下手な解説はやめましょう。
この本に触発された一首で締めくくります。
魂も霊ももちろん存在す生ある者の存する限り
古書は流行り廃りに左右されないものに市場価値があります。
ベストセラーにはなってもすぐに読まれなくなる小説などではなく、類書があまりなく、普遍的価値を有するものが末永く流通するものです。
たとえ少数であってもその価値を認める人は必ず存在します。
古書店としてはそういう本を大切に取扱っていきたいですし、絶版本は電子書籍化してでも残していかなければと考えています。
