《古書・古本の出張買取》 京都・全適堂 の日記
-
『橋本鶏二集(自註現代俳句シリーズⅠ期10)』(俳人協会)より
2022.08.13
-
昭和53。
「年輪」主宰。
ふる雪や機械しづかに鐡を切る
水馬はじきとばして水堅し
瀧風に巫女のあそべる巌かな
鳥のうちの鷹に生れし汝かな
菊の前静かにたまる落葉かな
冬濤の摑みのぼれる巌かな
秋燕の羽をたたみてなが…
-
橋本鶏二『鷹の胸』(牧羊社)より
2022.08.05
-
昭和56。
「年輪」主宰。第9句集。
書の稜(かど)の鋭きを愛せり桜桃忌
秋空に手をあてて手を書にもどす
藁塚にのせればすべる旅鞄
短日や返しにゆきし貰ひ猫
鳥雲に個人タクシー顔を出す
プリマドンナ氷河のごとき毛衣…
-
加藤楸邨『句集 まぼろしの鹿』(思潮社)より
2022.07.31
-
1967年。
「寒雷」主宰。第10句集。
乳児の声黴の中よりほとばしる
顎に汗怠けてゐるも楽ならず
薔薇の前牡丹の前と声かはる
薔薇見ては妻が詠む句をのぞきをり
柿出して巧みな論をぶちきりぬ
秋耕や牛のふぐりはきら…
-
泉田秋硯『梨の球形』(牧羊社)より
2022.07.28
-
平成3。
「霜林」同人。第2句集。
Tシャツの胸の横文字知らず着る
宿直の一人のための虫しぐれ
露天湯に女入るたび月融ける
皮むいて梨の球形掌にのこる
コスモスへ跳び込みし犬呼んでゐる
日本海より風が来て日本晴
伐る…
-
飯田龍太『句集 忘音』(牧羊社)より
2022.07.17
-
昭和44。
「雲母」主宰。第4句集。
風吹いて月よみがへる梅雨の町
バイブルは常に重き書夜の秋
秋の蝉まつはる入日解きがたし
落葉踏む足音いづこにもあらず
遺書父になし母になし冬日向
亡き母の草履いちにち秋の風
大根…
-
富澤赤黄男『句集 天の狼(復刻)』(沖積社)
2022.07.17
-
平成16。
第2句集。
冬波に向へばあつきわがめがしら
鶴渡る大地の阿呆日の阿呆
蝶ひかりひかりわたしは昏くなる
炎天の巨きトカゲとなりし河
鱗雲 流れ弾きて流れたり
蒼天のキンキンと鳴る釘をうつ
一輪のきらりと花が光…
-
平畑静塔『句集 旅鶴』(遠星書館)より
2022.07.10
-
昭和42年。
第2句集。
一本の鞭にて野火をただすなり
炭小屋に汚れて事を忘れる母
子の下宿さはれば物の強き凍
舟を漕ぐのけぞる方に花万朶
白障子までひとすぢに畝起す
花野より天に四足を駈けし犬
なき母の声あかぎれの…
-
加藤楸邨『句集 山脈』(書肆ユリカ)より
2022.07.08
-
1955年。
「寒雷」主宰。第2句集。
沈黙の金、玉蟲と夕焼と
唖蝉や鳴かざるものは暑くるし
黄金蟲灯に酔ひ兜蟲は攀づ
黴の中言葉となればもう古し
石の蝶金色すべく没日まつ
しぐれをきし額をもつて熱診られ
落葉何かに…
-
阿波野青畝『句集 春の鳶 改訂版』(白夜書房)より
2022.07.02
-
昭和55。
「かつらぎ」主宰。第2句集。
お遍路の合掌ながく且つかたく
雲海に指の穴ほど日本海
彼処焼け此処のこる街卒業す
解夏の門斯くも大きく開かれし
北窓を開け父の顔母の顔
風花の我より君に逃ぐるあり
足音が固ま…
-
平畑静塔『句集 栃木集』(角川書店)より
2022.06.26
-
昭和46。第3句集。
桃の花こぼれし死後の長廊下
太宰忌の支線岐れて郷に入る
としよりの後手恐き稲雀
看護婦は春蚊捕へて血を見せず
母達や数珠繰るごとく栗を選る
天蓋に八面玲瓏大ざくら
前足の手をつきあはれ雪を這ふ
…